技術者と研究者に向けた伝熱工学の基礎と応用 第1章 伝熱工学の概要⑤
ハー と
フー はどこが違うか
レクチャーシリーズ伝熱工学の基礎と応用です。寒い日に手を口に近づけて「ハー」と息を吹くと温かく感じますが、口をすぼめて「フー」と息を手に吹くと冷たく感じるのはなぜでしょうか。この現象には、噴流の流れと、対流熱伝達の境界層や熱伝達率が関わっています。
On a cold day, if you hold your hands near your mouth and blow out a “haa,” they feel warm, but if you purse your lips and blow a “fuu” onto your hands, they feel cold. Why is that? This phenomenon is related to the boundary layer and heat transfer coefficient involved in convective heat transfer.
技術者と研究者に向けた伝熱工学の基礎と応用
今回の要約
技術者と研究者に向けた伝熱工学の基礎と応用
東北大学未来科学技術共同研究センター レクチャーシリーズ
熱プロセスを習得したい人のための入門と実践的応用
講師: 圓山重直
第1章 伝熱工学の概要
1-5. 伝熱工学の質問D 「ハー」と「フー」はどこが違うか
【スライド1】「第1章 伝熱工学の概要」では、5回にわたり、「伝熱工学の質問」を通して、伝熱現象を理解しています。今回の伝熱工学の質問は、「ハーとフーはどこが違うか」です。
「ハー」と息を手にかけた時と「フー」と息をかけたでは、感じ方が違います。ハーは温かく感じますが「フー」は冷たく感じます。今回は、「ハー」と「フー」の息のかけ方で、なぜ感じ方が違うのかについて考えます。
【スライド4】皆さんは、寒いときに手を口に近づけて「ハー」を吹くと温かく感じます。一方、熱い食べ物を冷やすとき「フー」と吹いて食べ物を冷まします。「ハー」と息を手にかけた時と「フー」と息をかけたときでは、感じ方が違うのはなぜでしょうか。
【スライド5】実際に「ハー」と「フー」の検証をしてみましょう。口を大きく開けて「ハー」と手に息をかけた時のサーモカメラの映像を見ると、息が当たっているところの温度が高くなっています。一方、口をすぼめてフーと手に息をかけた時のサーモカメラ映像では、息が当たっている場所は高温になりません。
【スライド6】この違いは、口の開け方と息を吹きかける時の口と手のひらの距離の違いによるのです。「ハー」と息を吹くとき、皆さんは口を大きく開けて、手を近づけた状態で息を吹きます。このとき、体の中の暖かい空気が手のひらに直接当たるので、暖かく感じます。一方、口をすぼめて「フー」と息を吹くと、高速の息の流れが外の空気と巻き込みます。息を吹きかけた時には、巻き込まれた空気のために外気とほとんど同じ温度の空気が当たります。そのために冷たく感じるのです。
【スライド7】この現象を流体力学の観点から見てみましょう。口から出た息の流れは、ノズルから噴出する自由噴流またはジェットと考えられます。ノズルから出た直後のジェットは外部の空気と混ざらずに、ノズルから出た噴流のままです。その温度もノズル内の流体と同じになります。この領域をポテンシャルコアといいます。
ポテンシャルコアの外側は噴流と外気が混ざっている混合領域です。その先はポテンシャルコアがない発達領域で、外気と完全に混ざった完全発達領域となります。ポテンシャルコアの長さは、ノズル直系の5~6倍、ノズル直径の12倍以上では完全発達領域となると言われています。
【スライド8】つまり、ハーと息を吹くときには、手を口元近くに置きますから、ポテンシャルコアの息が直接当たって暖かく感じます。一方、フーと息を吹くときは口をすぼめて手との距離を取りますから、外気と混ざった噴流が手に当たり冷たく感じます。
【スライド9】ここで、新たな疑問が生じます。フーと吹いたとき、周囲と同じ温度の空気が当たるのに、なぜ冷たく感じるのでしょうか。フーと吹く前の手のひらは周囲と同じ温度の空気中にあるのですから、冷たく感じないはずです。同じように、熱いラーメンをフーと息を吹いて冷やすのも、同じ温度の空気噴流を当てるのですから冷たくなるのは不思議です。
【スライド10】この質問の答えのカギは境界層と対流熱伝達にあります。手にフーと息をかけるように、温度の高い物体に低温の空気を流す場合を考えます。物体周りの流れの状態を詳細に見ると、物体の表面の空気は物体の温度と同じで、その周りに物体温度から周囲温度まで温度が変化する空気の層が存在します。この薄い層を「境界層」と呼びます。この薄い境界層が手のひらと周囲空気の間に存在し、布団のような役目をして手のひらを保温しています。
高速の空気を当てるとこの境界層が吹き飛ばされて薄くなり、熱伝達率が大きくなるために、空気が当たると冷たく感じることになります。つまり、物体と流体の間には境界層と呼ばれる層が存在し、流体の速度が増加すると、境界層が薄くなり熱伝達率が増加し、より多くの熱が移動します。今回のように「フー」と手のひらに高速の息を吹きかけることによって、境界層が薄くなり熱伝達率が増大し、より多くの熱が奪われるために、常温の空気が当たると冷たく感じることになります。
【スライド11】夏の暑い日に、扇風機やウチワで風をあてると涼しく感じるのは、空気流によって境界層を薄くして熱伝達率を向上させるためなのです。最近では、「フー」の原理で、高速の噴流で風を起こす扇風機が発売されています。つまり、高速の空気を小さなノズルから噴出させ、周りの空気を巻き込んで噴流とする扇風機です。
【スライド12】実際の境界層が流れによってどのように変化するか、実験で観察してみました。東北大学流体科学研究所の大型光干渉装置で加熱円柱周りの温度分布を観察しました。この装置は、光の干渉効果よって、等しい温度の領域が白黒の縞模様で観察できます。
はじめの状態では、空気を流しておらず、自然対流で円柱周りの温められた空気が流れて、温度境界層を形成しています。ここに、空気を流して速度を徐々に増してゆくと境界層が薄くなり、流速の増加と共に境界層が薄くなります。ついには、この干渉計画像で見えないくらい薄くなります。一定の流速を越えると、境界層は層流境界層から乱流境界層へと遷移して、さらに熱伝達率が増大します。境界層が乱流に遷移することによって円柱周りの流れの状態も変化します。