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技術者と研究者に向けた伝熱工学の基礎と応用 第1章 伝熱工学の概要⑥ 牛乳の加熱

東北大学名誉教授/八戸高専名誉教授:圓山重直

レクチャーシリーズ伝熱工学の基礎と応用です。90℃のお湯を使って、同量の10℃の牛乳を70℃以上に加熱できるでしょうか。熱力学では、牛乳は50℃以上になりません。しかし、高温流体と低温流体が逆方向に流れて熱交換をする、向流型熱交換器を使用すると、牛乳の温度を90℃近傍まで加熱することが可能となります。
Is it possible to heat 100 liters of milk at 10°C to over 70°C using 100 liters of hot water at 90°C? According to thermodynamics, the milk will not exceed 50°C.However, it is possible by using a “counter-flow heat exchanger”.
 
 
技術者と研究者に向けた伝熱工学の基礎と応用
 
 
今回の要約
技術者と研究者に向けた伝熱工学の基礎と応用
東北大学未来科学技術共同研究センター レクチャーシリーズ
熱プロセスを習得したい人のための入門と実践的応用
講師: 圓山重直
第1章 伝熱工学の概要
1-6. 伝熱工学の質問E 牛乳の加熱
 
【スライド1】今回は、「第1章 伝熱工学の概要」の6回目で、伝熱工学の質問はこれで最後になります。今回の質問は、「10℃の牛乳100リットルを殺菌加熱するために70℃以上に加熱したい。90℃100リットルのお湯を使ってこの加熱が可能だろうか」 です。
この質問を通して、熱交換器の仕組みに関して理解します。また、この問題は省エネ技術とも密接に関係しています。
【スライド4】今回の、伝熱工学の質問は、10℃の牛乳100リットルを殺菌加熱するために70℃以上に加熱したい。90℃100リットルのお湯を使ってこの加熱が可能だろうか です。これは、牛乳の加工工場などで、10℃の牛乳を低温殺菌するプロセスとして考えます。つまり、90℃100ℓのお湯を使って、同量の10℃の牛乳を70℃以上に加熱できるかを考えます。
食品は、一般的に60℃~70℃以上の温度に加熱すると食品の風味を損なわずに殺菌することができます。これは、フランス人のルイ・パスツールが開発した殺菌方法で、パステライゼージョンといい、牛乳やワインの殺菌に使用されています。この低温殺菌には、牛乳を加熱しすぎないようにするために、お湯を使うことが多いのですが、牛乳と同じ量のお湯で、牛乳を70℃以上に出来るか?というのが今回の質問です。もし、これが可能であれば大量のお湯で加熱しなくても良いので、食品の省エネプロセスにも貢献します。
【スライド5】この問題を考えるにあたり、水と牛乳の物性を考えます。牛乳の約90%は水なので、近似的に牛乳の物性は水と同じだと考えることができます。同じ量の10℃の牛乳と90℃のお湯を接触させたらどうなるでしょうか。熱は高温物体から低温物体に移動します。もし、熱が他に逃げない断熱状態であれば、両者の熱容量は同じなので、暫くすると牛乳とお湯はその中間温度である、50℃になります。つまり、熱力学のエネルギー保存の法則により、牛乳は50℃以上なりません。従って、この質問の答えは「不可能である」ということになります。
【スライド6】これも、答えの一つですが、伝熱工学を用いると、牛乳を70℃以上に加熱することが可能なのです。10℃の牛乳と90℃のお湯の熱の伝わり方を工夫することによって、牛乳を70℃以上にしてお湯の温度を30℃以下にすることができます。これによって、お湯の熱エネルギーを無駄なく牛乳に伝えることができて、エネルギーの節約にもなります。では、どのようにすると牛乳を70℃以上に出来るのでしょうか。それは、向流型熱交換器という熱交換器を使うことによって可能となるのです。
【スライド7】まず、皆さんには熱交換器を知ってもらわなければなりません。熱交換器とは流体に熱を伝える道具で、高温の流体から低温の流体に熱を伝える、生産プロセスで多く使用されています。2つの流体を隔壁で隔てた隔板式熱交換器を考えます。高温の流体①は熱交換器で流体②に熱を移動させ低温の流体になります。一方、低温の流体②は熱交換器で流体①から熱を受け取り高温となって熱交換器を出ます。熱交換器は、伝熱工学の基礎と応用を結ぶ接点でもあります。詳しくは、このレクシャーシリーズの第6章で説明します。
【スライド8】熱交換器の中に、並流型熱交換器と向流型熱交換器があります。並流型熱交換器は、高温流体と低温流体が同じ方向に流れています。もし、90℃のお湯と10℃の牛乳を同じ量流すと、牛乳は50℃以上にはなりません。向流型熱交換器は、高温流体と低温流体が逆方向に流れて熱交換を行います。向流型熱交換器を使用すると、牛乳の温度を90℃近傍まで加熱し、お湯を10℃近傍まで冷却することが可能となります。もし、この加熱に並流型熱交換器を使用すると、90℃のお湯が牛乳の3倍以上必要となります。並流型熱交換器を使用すると、牛乳に比べて大量のお湯が必要になり、エネルギーの無駄使いとなります。伝熱工学は、省エネ機器をつくり、エネルギーを節約することにも貢献しています。
【スライド9】スライド左の図は、食品の加熱冷却に使用されるプレート式熱交換器の構造を示したものです。熱交換器はデコボコのあるプレートを重ねたもので、プレートの間の隙間に高温流体と低温流体が交互に流れています。食品を扱う熱交換器なので、この熱交換プレートは容易に分解できる構造になっており、操業が終わったら分解・洗浄して再び使用します。
スライド右の図は、プレート熱交換器内部の流れを示したものです。プレート間の隙間の流れを、向流型とすることによって、向流型熱交換器として動作します。つまり、この図に示すように、プレート式熱交換器内部の流れを反対方向にして向流型熱交換器として使うことによって、温水を節約して牛乳の低温殺菌が可能となります。

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